元探偵助手、転生先の異世界で令嬢探偵になる。



 黒瀬。フルネームは黒瀬蒼也(そうや)という黒いんだか蒼いんだかわからない名前をしている。

 黒瀬は少々性格に難ありだが、25という若さながらにすこぶる優秀な探偵だった。警察が手に負えず迷宮入りしそうになった事件をいくつも解決してきた。あと無駄に顔が良い。

 先ほど頭の中で響いた男の声は、紛うことなく黒瀬の声だった。


 静奈はそんな黒瀬に事件現場に駆り出されては、助手の仕事だと言ってもうほとんど雑用係のように扱われていた。

 関係者への聞き込みに潜入捜査、トリックの実用性についての実験など……本当に色々させられた。容疑者の家から事件現場まで10分以内で行くことができればアリバイを崩せると言われ、検証のため何往復も全力疾走させられたときは本気で殺意が湧いた。


 だけど黒瀬の助手になって振り回された3年間は、静奈のたった20年の人生の中で、間違いなく一番輝いていた。

 だからあの時、あそこで死んだことに悔いは──



「だから俺は()ってねえって言ってんだろ!!」



 ……男の乱暴な声で、シエラはハッと現実に引き戻された。