推理を否定されなかったことに、シエラはほっと息を吐く。

 というか、ルシウスは先ほどさらりと『きちんと推理をするようになったと感心していた』と言っていた。これはもしかしなくても褒められているのかもしれない。

 少しばかりそんな期待をしていたが、彼は次の瞬間にはいつもの張り付けた笑みを浮かべていて、これまたいつものように嫌味っぽく言った。



「とはいっても、無数にある可能性の一つ。確定するには物的証拠が必須ですよ?何故その可能性に思い当った時点で男爵の屋敷を調べなかったんです?」

「それはその……家に帰ってから思いついたことだったし……」

「なるほど。この程度のことを、帰ってゆっくり考えてみるまで気付かなかったんですか」

「うっ……」



 心にぐさりと突き刺さった。黒瀬とは違うのだから、その場で色んな可能性をほいほいと思いつくわけがない。

 シエラは悔しさでいっぱいになりながらも、同時にこんなことも思った。

 こういうやり取り、何だか懐かしい。