これ以上長居しても仕方なさそうだと、シエラはお礼を言って立ち上がろうとした。

 その時、隣の部屋から五歳か六歳ぐらいの男の子が、よたよたとこちらにやってきた。小さな手に似合わない大きなハサミを持っている。



「まま、そのひとだれ?」

「まあ!だめよ、向こうで遊んでなさいって言ったじゃない。こら!だから私の仕事道具に触っちゃだめ!危ないから!……申し訳ありませんダグラス様」

「いえお気になさらず。息子さんですか?」



 髪と目の色がダイアナと同じで、可愛らしい子どもだった。

 そしてその子を見て、シエラは先ほど道で見た、母親が子どもを鬼のような形相で連れ戻す光景を思い出した。



「あの、最近この辺りで誘拐事件があったんですか?」

「え?」

「そういう話を小耳にはさんだので」



 ダイアナの顔色が、マルガリータの話をしたときとは比べ物にならないぐらい青くなった。震えながら、息子をぎゅっと抱きしめる。



「知りません!」

「え……」

「何も知りません!これ以上お話しすることはありません!お引き取りを!」



 先ほどまでそこそこ好意的だったのに、豹変した。

 叫ぶように言ったダイアナに、シエラは家から追い出されてしまったのだった。