「このレースはダイアナさんが?」
ダイアナの緊張を解こうと、シエラは部屋の中に置かれていた作りかけのレースに目を向けて尋ねた。
「はい。……男爵家での仕事をクビになってからも、どうにかこれを作って生活しています」
「美しいわ。高い技術をお持ちなのですね。デマール領のレース製品は貴族の間でも人気ですから」
「そうらしいですね。でも、職人であるわたしたちへの報酬は安いものです。その上、税も上がる一方で……」
この領地での税の取り立ては、日に日に厳しくなっているのだという。
税率は一年ほどで急に上がった。さすがにおかしいと抗議した者もあるそうだが、その勇気ある人は見せしめに拷問されたらしい。
この辺りの人々の異様な雰囲気の正体がわかった気がした。
男爵家からいいように搾取され、暴力に怯え、日々を暮らしているのだ。
しかし同時に疑問も浮かぶ。民からそれだけの金を取りあげていれば、ずいぶんと贅沢な暮らしをしていそうなものだが、デマール男爵家は安物の茶葉しか買えないほど財政難に苦しんでいるはずだった。