使用人に意味が分からないといった顔をされるのは当然だ。
蝶よ花よと育てられた貴族令嬢が、人が死んでいる現場に慣れているはずがない。本来なら叫ぶか気絶するかしても良いぐらいの場面だ。
何故、自分はこのような場面に慣れていると思った?シエラがそう考え始めると同時に、誰かの声が頭の中に響いた。
『探偵というのは、こちらが望まずとも事件に引き寄せられてしまうものなのですよ、静奈くん』
探偵・事件・静奈。シエラの頭の中で、閉ざされていた扉の鍵が音を立てて解除された気がした。
そして、気がつけば口を押さえながら叫んでいた。
「あああああ!お、思い出したっ!」
鍵をかけられていた扉の向こう側の記憶。
それは、シエラ・ダグラスの前世の記憶だった。
20歳で命を落とした、日本人の女性。名前は静奈。とある探偵事務所で、黒瀬という男の助手をしていた。



