あなたに、キスのその先を。

 不安に思いながら修太郎(しゅうたろう)さんを再度見上げたら、溜め息交じりではあるものの、「分かりました」と折れてくださった。

 そのことに、私は心底ホッとする。

 私が選んだイヤリングを見た修太郎さんが、「日織(ひおり)さん、僕への遠慮でこれを選んだわけではないんですよね?」と念押ししていらっしゃるのへ、「もちろんです」とお応えする。

 修太郎さんが店員さんを呼んで、それを包んで頂いている間、私は何でもない日にプレゼントなんて買っていただいていいのかな?と思ってしまう。

 ソワソワしながら彼の横に立っていたら、「日織さんは指輪、もう少し悩んでみてくださいね」とショーケースのほうへ連れ戻されてしまった。

 うーーー。修太郎さん、手強いですっ。

 私は仕方なくショーケースの中をぼんやりと眺めながら、修太郎さんが店員さんとやり取りなさっておられるのを時折ちらちらと盗み見る。

 イヤリングだけを包んでくださっているにしては時間が掛かりすぎる気もするけれど、いつも自分用にしかアクセサリーを買ったことがないからそう思うだけかもしれません。プレゼント用にすると、時間がかかるものなのかな?

 いくらケースの中を眺めていても、おねだり出来る様な指輪なんてないのです。指輪、自分で買ったのを左手の薬指にしたんじゃダメかしら?とか考えて、それはやっぱり納得していただけるわけないですよね、としゅんとする。
 今日が何か特別な日だったら……私はもう少し素直になれたかもしれません。

 ごめんなさい、修太郎さん。

 折角修太郎さんがご厚意でここへ連れてきてくださったのに、変に遠慮しておねだりできないとか……本当に私は可愛くないです。
 そんなこと、自分でも分かっているのに、男性からプレゼントを贈られ慣れていないので、こういうときにどうすべきなのか、私にはよく分からないのです。