あなたに、キスのその先を。

***


「ほら、予約の時間が近いですし、あの人は待たせると後が怖いので、急ぎますよ?」

 腕時計をちらりと見られた健二さんが、膠着(こうちゃく)したままの微妙な空気を断ち切るように、そうおっしゃった。

 言うなりさっさと歩き出してしまう彼の後に続いて、修太郎さんが「行きましょう」と手を引いてくださる。


 いつも飄々(ひょうひょう)とした雰囲気の健二(けんじ)さんを、こんな風に慌てさせてしまう人とは、一体どんな方なんだろう?

 ふとそう思って修太郎(しゅうたろう)さんの方を見たら、彼も同じことを思われたのか、パチリと視線が絡んだ。
 さっきからなかなか私の方を見てくださらなかった修太郎さんのお顔を見て、何だか照れてしまう。

 色んなことに一杯一杯で今まで気が回らなかったけれど、スーツ姿の修太郎さんはとてもかっこ良くて。
 私は修太郎さんに手を引かれて歩きながら、絡み合った視線を彼から外せなくなる。