「はい、無事に契約できました。番号、後でお教えしますね」

 気持ちを切り替えて、鞄の中からスマートフォンを取り出すと、母に見せながらにっこり笑う。

 本当はすぐにでも教えて差し上げたかったのだけれど、あいにく自分の番号を呼び出す方法が分からなくて。

 お母様は携帯をお持ちになられていないので、先ほど修太郎(しゅうたろう)さんにしたように、着信履歴を残して……という方法が使えない。
 先にお父様に着信履歴を残して、そこから自分の番号をメモさせていただこう。

 そこまで考えて、何だかやけに回りくどいなぁと思ったらおかしくなってしまった。

 帰宅直後、修太郎さんの気遣いが嬉しくて舞い上がっていた気持ちとは別の感情がムクムクと芽生えて、今度こそスマートフォンが原因でクスクス笑ってしまう。

日織(ひおり)?」

 お母様が不思議そうな顔をしてこちらをご覧になられるのへ、「私、本当に機械音痴だなぁって思ったら何だか笑えてきてしまいました」と答えてから、「先にお父様の携帯へ着信履歴を残してみますね。それでお父様に私の番号、見せていただこうと思います。お母様へはそれから……」と、頭で組み立てた通りの説明をする。

 お母様はそんな私を見て一瞬きょとんとなさってから、「貴女は若いんだから、すぐに使いこなせるようになるわ」と言って微笑まれた。

「そうだと嬉しいんですけれど」

 言ってから、「では後ほど」と頭を下げてお母様の横を通過すると、とりあえず自室へ向かう。