ひとりの魔導師が、戦場の勝敗を変えてしまうこともある。そのため、常にどの国でも強い魔導師を必要としている。アルヴィンの存在を歓迎することはあっても、その逆はありえない。
「むしろ目立ちすぎて、アルヴィンの敵に見つからないか心配になったの」
 正体は知らないが、彼に敵がいることは知っている。
 だからこその、心配だった。
「ああ、それなら問題ない」
 それなのに、あっさりとそう言うアルヴィンを見て、セシリアはますます不安になる。
 危険なことはしないと約束してくれたが、自分自身に関することだと、あまりにも返事や態度が軽い気がする。
「もう、アルヴィン。本当に、ちゃんと考えて」
「考えているさ。ただ、もうどうでもいいだけだ」
「どうでもいいって……」
 軽いを通り越して、投げやりにも聞こえる返答に、セシリアは困り果てた。
「セシリア。五年前の俺にとって、居場所をなくすということは、耐えがたいことだった」
 困っている様子に気が付いたのか、彼は静かにそう語り出した。
「居場所?」
「ああ。生まれた国。育った家。両親。それを失ってしまったら、もう生きてはいけないと思っていた」