に、逃げなきゃ……でも、今日はいつも以上に不機嫌で、逃がしてもらえそうにないっ……。



「——おい」



窮地に立たされた私に届いたのは、地を這うような低い声。

一瞬、誰のものかわからなかった。

視線を向けると、そこにいたのは高良くんで、ようやく高良くんの声だったのだと気づく。


私の知っている高良くんの声はもっと優しくて、甘やかすような声色だったから……別の人の声みたいだった。



「は……?」



私と岩尾くんのもとに、歩み寄ってくる高良くん。

岩尾くんは、こっちへくる高良くんを見て困惑していた。


周りにいた生徒たちも集まってきて、何事かと騒いでいる。

この状況に騒いでいるのか、高良くんの姿に騒いでいるのかはわからないけど……。




「離せ」



高良くんは、私の腕を掴んでいる岩尾くんの手を振り払った。


パシッと音を立てて、岩尾くんの手が離れていく。