蒸し蒸しとして、じっとしていてもじっとりと汗ばんでくるような夏のある夜。

 エアコンのないボロアパートに住む僕は、あまりの暑さに耐えかねて、ふらふらと街へ(まろ)び出た。
 どこか適当な店で涼めたら。
 そんな気持ちで歩いていたら、入ったことのない路地に目がいった。

(こんな道、あったかな……)
 見覚えのない巷路(こうじ)の向こうの方で、微かに灯りが明滅しているのが見える。

 その光に誘われるように、ふらふらとその小道へ足を踏み入れると、チカチカと点滅するスポット照明に照らされた、アンティーク調の小さな袖看板(そでかんばん)があった。
 看板には『Antique Shop Yugen-ya』と、か細い筆記体で書かれていた。

 蔦蔓(つたかずら)に覆われたレンガ造りの建物の前面がショーウインドウになっていて、そこと無垢(むく)のオークドアについた格子(こうし)(はま)った明かり窓から、道に(おぼ)ろな明かりが伸びている。

 アンティーク調の扉には『Open』と書かれた札が掛かっていた。