私は聞かなかった。
今日の任務の手柄は全部が私のものでは無いこと、それがどこか悔しいだけ。
「礼は言わない。失礼する」
「おっと、待って。実はこれから呑みに行こうと思っているんだけれど、良さげな相手を探していてね」
「…悪いが私はこの町のことはよく知らない」
「付き合ってくれない?それが礼でいいからさ」
なんの礼だ───と、その会話は面倒な為に返さなかった。
ここまで誰かと他愛なく繰り返したことは珍しい。
「…さっきはガキと言ってなかったか」
「あぁそうだっけ?忘れたなぁ、そんなこと」
それなら例え合掌をしていたとしても、石川を殺したことは忘れているのだろう。
人斬りだ、この男はかなり根深い人斬りと見えた。
脇差しが2つ。
小豆色をした着物に鼠色の袴。
月の光に照らされた顔は若い中にも見え隠れする色気、昼間であれば女が騒ぐことだろう。
「まぁまぁ凝った話は酒の席でってね。行こう小雪、俺は鴨鍋が食いたいんだ」
「……」
小雪(こゆき)───この男にとって私の名前は、本当にそうなったらしい。