1863年、1月。


俺はね、世界平和を目指しているんだよ───。


そんな馬鹿げたことを豪語している人斬りが、この江戸の町に居るらしい。

しかし噂、されど噂。

本当かどうかも分からないが、そんなことはどうでも。



「木内 与之助とお見受けする。殿方の命令の下、暗殺に参った」


「は…ッ!!」



ザシュッ───!!


舞い上がった血しぶきは夜の闇に溶け込む。

ドサッと地面に倒れる屍を気にすることなく、刃に付着した血を払う者が1人。



「…残るは石川か」



笠を深く被った影はつぶやいた。

その声は低いわけでも、凛と据わったわけでもなく。


こんな夜だからこそ紛れてしまう音だったけれど、それは大人にも男にも聞こえない。

その身なりだって袴でも女物をした着物でもなく、一見すると忍装束のような、なんと全てが曖昧な表現しか出来ないのだろう。



「───…雪、」



と、言うらしい。

空から降る白く柔い塊を、世間ではそう言うらしいのだ。


そっと見上げた空にほうっと白い息が上ってゆく。