迷う素振りを見せた流は、なぜか総司のほうを見やった。総司はぎくりとしたように、明後日の方向を見つめる。もう遅いと思うんだけど。



「……はあ…、入ってくれば」


その言葉を出すまでに総司がなにを考えたのかはわからない。だけどその言葉が決して軽々しく発せられたものだとは思えなかった。

もしかすると、俺がいない間に何かあったのかもしれない。


流は、道場に俺がいたときよりもずっと、驚いたように大きな目をさらに見開いた。


そしてすぐに、ぱっと花が咲くような笑顔になって、うなずいたのだった。



「っ、はい……!」



他の隊士たちも流が見学していくことには大賛成だったらしい。

入り口にいる流をこっちこっち、と自分の近くへと来させたがる姿は、妹を可愛がる兄貴のようだった。一体ここには何人の兄貴がいるんだ、と思わず苦笑する。




「さて、じゃあはじめますか」

「はい」

「言っておくが総司。次で負けたらかなりカッコ悪いぞ」

「はあ。一応訊きますけど、なぜです」


立ち位置につきながら得物の確認をしている総司に、俺はニッと笑った。



「流が見てたから緊張したんだと思われる」

「自己紹介ですか?」



よっしゃ、と気合いを入れた俺の様子を、のちに流が教えてくれた。



道場の中心で隊士らに囲まれ、俺は満面の笑みを見せていた。

額に流れる汗は、爽やかに差しこむ朝の日差しにきらきらと輝いて見えたという。






「ここで今日の一番を決めようぜ。新撰組一番隊組長────沖田総司!」