それから小一時間もしないうちに、お嬢様のお部屋のドアが勢いよく開きました。

 お掃除をしていたわたしは、一体何事が起ったのかとビックリして声も出ませんでした。

 お嬢様は結った髪をほどいており、手にはネックレスと履いていたヒールを持っています。

 お嬢様はそのまま片手に持ったネックレスとヒールを投げ捨てたのです。

 本来、お嬢様はそんな乱暴なことをするお方ではありません。とても思慮深い方ですので。

「ごめんね、ルカ。しばらく一人にしてくれるかしら」

 お嬢様は疲れたような、気の抜けたようなそんな血の気のないお顔をしております。

 きっとグレン様たちとの席で何かがあったに違いません。
 
 わたしはなんてことをしてしまったのでしょう。

 決して乗り気ではなく、期待もしていなかったであろうお嬢様を、たきつけたのはわたしです。

「申し訳ありません、お嬢様」

 泣きそうになりながら、頭を下げて退出する。

 きっと泣きそうなのはわたしではなく、お嬢様のはずです。わたしに泣く権利はありません。

 まず一刻も早く状況を確認しなければいけないのです。

 本来はしてはいけないのですが、小走りに客間へ向かいます。

 誰か状況の分かる使用人がいるはずです。その使用人に聞けば何があったのか教えてくれるでしょう。