恐る恐る振り返ったイヅナは、顔を真っ青にして悲鳴を上げる。饕餮と渾沌の二体の体は、まるで列車に轢かれたかのようにぐちゃぐちゃになっていた。どちらが渾沌でどちらが饕餮なのかわからないほどだ。

「ふぅ、改良頑張ったのになぁ。いっつもみんな裏切っちゃうんだよね」

そう言いながら笑う青年の目には、イヅナたちではなくツヤ一人が映っている。それにツヤはすぐに気付いた。

「あたしとお前はどこかで会ったことがあるのか?あたしが人間から鬼にされたことについて、何か知っているのか?」

しかし、その質問に青年は「さぁね」としか返さない。ツヤは戸惑いと苛立ちから、「ふざけるな!」と言い青年に掴み掛かろうと地面を蹴る。それでもなお、青年は楽しそうにしていた。

「俺の名前はイヴァン・メドベージュワ。また会う時までさようなら」

イヴァンは頭にあるシルクハットを片手に持ち、マジシャンがショーの終わりに披露するようなお辞儀をし、そのまま姿を消してしまう。一瞬で彼はいなくなっていた。

(一体何が起きているの?)

イヅナは言葉を発することができず、ただ疑問だけが頭に浮かんだ。