心臓がドキドキとうるさく、緊張でどこか息苦しい。イヅナは耐えられず、「出てきて」と言い式神である猫を召喚した。

「ごめんね、少し怖くて……。そばにいてくれる?」

猫はなぁんと頷くように鳴き、イヅナの横に並んでテクテクと歩き出す。それだけでも恐怖は少し薄れるのだから、人間というのは単純である。

一階まで降りて全ての部屋を見回したが、妖はいない。今夜も異常はないようだ。

「そもそも、相手がどんな妖なのか知らないから、エイモンさんが見回りに行った時に出てきてほしいわ。ヴィンセントはまだ戦えるけど、私じゃきっと無理ね」

猫にイヅナが言った刹那、猫の耳がピクリと動く。その目は先ほど降りてきた階段を見つめていた。次の瞬間、猫は猛スピードで階段を駆けて行く。

「えっ!?どこに行くの!!」

突然、猫が走って行ったことに驚き、イヅナは夜中だというのに大きな声を出してしまう。それでも、猫は階段を登って行くので、イヅナも後を追った。