エイモンとチターゼは部下と上司という関係で、イヅナたちより関わる時間も多い。だからこそわかる部分もあるのだろう。

それでもイヅナの中からモヤモヤする気持ちは消えず、ヴィンセントは黙っていたものの怒っていた。

夜になると、イヅナたちは警戒をしながら交代でみんなが寝静まった旅館の見回りをする。

「イヅナ、交代お願い」

ヴィンセントに肩を揺さぶられ、イヅナはゆっくりと布団から起き上がる。そして寝ぼけ眼を擦りながら懐中電灯を受け取り、「お疲れ様」と声をかけて部屋を出た。

昼間賑わっているせいか、静まり返り、明かりの消えた真っ暗な旅館は少し不気味である。イヅナは懐中電灯を握り締め、妖の気配がないか神経を集中させた。

なるべく足音を立てないよう、妖が出そうな場所を見回っていく。少し聞こえた物音にも反応してしまい、「ハッハッ……」と短い呼吸をしながら懐中電灯を音のする方へ向ける。

「夜に一人で見回りって未だに慣れないわね……」