「藤波くんお待たせー!」
駅の改札前で、見慣れたジャージ姿の男の子を発見する。
香純ちゃんは大きな声で名前を呼んで、手を振っていた。
それに気がついた藤波くんが私たちへ手を振り返す。
「おう……っ、片寄さん、おはよう」
「お、おはよう、藤波くん」
目の前までやってきて、今日初めて会う藤波くんと挨拶を交わす。
メイクをして人と会うのはなんだか緊張する。
「……変、かな?」
「いや、全然!……むしろ可愛いよ」
そう言う藤波くんは、なぜか語尾が何とか聞き取れるくらい小さな声になっていて、なんとなく顔が赤く染まっているような……そんな気がした。
「鼻なんか伸ばしちゃって!藤波くんに実桜ちゃんはあげないんだから!」
「っ、小崎さんはちょっと黙って。ほら、遅れちゃ困るから早く行くよ」
照れ隠しなのか、藤波くんは私たちに背中を向けて先に改札の中へと入って行ってしまった。
「実桜ちゃん、気をつけてね?藤波くんになんか変なことされたらすぐに言うんだよ?」
「う、うん?」
変なことってなんだろう……?
優しい藤波くんが嫌なことをするなんてこと、ないと思うけれど。
とりあえずコクンと頷いて藤波くんの後ろを行く香純ちゃんの後をついて行った。



