「奏さん。ご相談があります」

と、私は言いました。

「え、何?」

「先々週は爬虫類の館、先週は深海魚水族館に行った私達ですが」

「う、うん。行ったね」

と、奏さんは答えました。

覚えていてくれて有り難いです。

「では今週は、別の場所に行こうと思うんですが」

「う、うん…?」

「奏さんは、何処が良いですか?今度は奏さんの行きたいところに行きましょう」

と、私は言いました。

「奏さんは、何処に行きたいですか?」

「瑠璃華さん…」

と、奏さんは何故か、感動したような顔をしていました。

「まさか、俺に選択権が与えられる日が来るなんて…。いや、最初に瑠璃華さんの意見を優先するって言ったのは俺だけど…」

と、奏さんは感動のままに呟いていました。

どういう意味でしょうか。

「実は俺も、あの後ちょっと調べて…。瑠璃華さんと一緒に行けたら良いかな、って思う施設を見つけたんだよ」

と、奏さんは言いました。

なんと。それは良いことです。吉報ですね。

「それは良かった。では、今週末はそこに行きましょう」

と、私は言いました。

これで話は決まり、と思っていましたが。

しかし。

「ちょっと待った」

と、奏さんは言いました。

「?どうかしましたか?」

「瑠璃華さん、君、また忘れてるでしょ」

と、奏さんは言いました。

忘れている?私が?

『新世界アンドロイド』である私は、一度頭に入った情報は、基本的に消されることはないのですが。

つまり、一度知った情報を、忘れることはありません。

「来週から、期末試験なんだよ。瑠璃華さん忘れてない?」

と、奏さんは聞きました。

期末試験。

つまり、この学期が終わる前に行われる、学期を締め括る試験のことですね。

「覚えていますよ、勿論。約束しましたからね。今度は、白紙で提出しないと」

「あ、覚えてるんだ…」

と、奏さんは意外そうに言いました。

私には心はありませんが、心外です。

期末試験の日程については、頭の中の最優先事項としてインプットされています。

勿論、忘れることはありません。

「でも、期末試験と、奏さんと今週末に出かけることに、何の関係があるのですか?」

「何の関係って…。試験前の週末に、呑気に遊びに行ってる場合じゃないでしょ」

「?呑気ではありませんよ。それはそれ、これはこれです。試験に関しては既に、各教師が提示した、試験範囲の全てを暗記していますから。何の問題もありません」

「…瑠璃華さんつっよ…」

と、奏さんは呟きました。

私、『新世界アンドロイド』ですから。

「…でも、俺は瑠璃華さんより弱いからさ。試験前の週末くらい、真剣に勉強しようと思うんだ」

「そうですか…それじゃ、遊びには行けませんね。残念です」

と、私は言いました。

そして、今しがた自分の言った台詞に、ハッとしました。