会計を終えて。

「はい、どうぞ奏さん。ナイルワニです」

「あ、ありがとう…?」

と、奏さんは言いました。

何故疑問形なのでしょうか。

「ま、まぁ良いか…。それと、お金返すよ」

「何のですか?」

「何のって、このワニの」

と、奏さんは答えました。

あぁ、ナイルワニのキーホルダー代ですね。

「別に構いませんよ。大した額じゃありませんでしたし」

「いや、それでも返すよ」

「律儀ですね、奏さんは」

「女の子に奢られるっていうのはね、何と言うか…男のプライドが傷つく」

と、奏さんは言いました。

男のプライド。

性別のない私には、全く分からない感情ですね。

でも、奏さんにはきっとあるのでしょう。

それはきっと、私が先程「あのコモドドラゴンには負けない」と思ったのと、同じようなものなのでしょう。

「だから返す。はい」

「…ありがとうございます」

と、私は言いました。

そして、ナイルワニ代を返してもらいました。





…さて、それでは。

「見るものも見ましたし、帰りましょうか」

「そうだね」

と、奏さんは答えました。

『見聞広がるワールド 爬虫類の館』とは、これでおさらばです。

次、会うときは。

「…負けませんからね、コモドドラゴン…」

「…まだ言ってる…」

と、ポツリと奏さんは呟きました。