でも、そんな本心を口にしたら仁は私のことを鬱陶しいと感じてしまうだろう。
そう考えるととてもじゃないけど、言い出せる訳がなかった。
「……へぇ。彼氏、欲しいんだ」
「う、うん。周りの友達がみんな彼氏持ちだからさ……」
私の手を掴んでいた指が離れていく。
僅かな寂しさと共に安堵したのも束の間、ばちっと合った視線の冷たさに思考が停止した。
見たことのない冷ややかな視線に、背筋に嫌な汗が滲む。
こたつで温められた体温が、急激に下がっていくのを感じた。
これは……仁が本気で怒っているときの目だ。
私、何か怒らせるようなこと言った?
必死に考えを巡らせても、思い当たる節がない。
「どんな男が良いわけ?」
「それは……」
淡々とした問いかけに、思わず言葉に詰まって黙り込む。
離れていったはずの仁の指が私の頬に触れ、そっと耳元を擽った。
冷ややかな眼差しとは正反対の熱い温度が、皮膚越しに伝わってくる。
「教えてよ。菜月の好みってどんな奴?
年上?愛想が良くて優しい奴?
それとも…………キスが上手い男、とか?」
冷たく光る瞳の奥底が欲情の色を湛えていることに気付いたのは、仁の唇が私の口を塞いだのとほぼ同時だった。


