定休日の倶楽部に呼び出されて美澄が行くと、すでに久賀はカウンターの中でパソコンを見つめていた。

「……おはよう、ございます」

コートについた雪を払って、ドアの隙間からそろそろと顔を出す。

「おはようございます」

久賀はいつもと変わらない態度で立ち上がる。
その久賀に、美澄は深く身体を折り曲げて謝罪した。

「先生、先日は本当に申し訳ありませんでした。わざわざ病院までいらしてくださったのに、私、大変失礼なことを口走ってしまって、その、」

「体調はもういいんですか?」

慈しむようなやさしい声に、美澄は一瞬言葉を失った。

「……はい。もう大丈夫です」

「無理していませんか?」

「先生に言われたように、しっかり寝て、ご飯もちゃんと作って食べてます」

「それならいいんです。僕の方こそ負担のかかる話を持ち出してしまって申し訳ありませんでした」

久賀はパソコンのデータを保存し、電源を落とす。

「今日はちょっとお願いがあって」

「何でしょう?」

久賀は一度キッチンへ行って空の缶を持ってきた。

「コーヒー豆がなくなりまして」

「コーヒー?」

「何か、新しいものを買おうと思うんですけど、僕は詳しくないので」

「お付き合いすればいいんですか?」

「ご迷惑でなければ」

久賀の真意が読み切れないまま、美澄はうなずいた。

「私も詳しくないですけど、それでもよければ」

「一緒に選んでくれるだけでいいです」

久賀は微笑んで、コートを羽織った。