駅まで走ってきた圭吾は、大きくジャンプしてみずたまりを跳び越えた。
着地と同時に美澄に向かって手を上げる。

「古関さん!」

「あ、圭吾くん。今倶楽部の帰り?」

圭吾のニット帽についた雪を払いながら美澄は尋ねる。
冬休みに入って、圭吾は毎日あさひ将棋倶楽部に通っているらしいが、美澄はアルバイトが忙しくて通えていなかった。
年末年始は帰省する学生も多く、毎年人手不足なのだ。

「ねえねえ、久賀先生にケンカ売ったってホント?」

クリスマスプレゼントの話をするみたいに、圭吾は目を輝かせて尋ねた。

「なんで知ってるの?」

「みんな知ってるよ」

『みんな』の顔を思い浮かべ、美澄は苦笑する。

「それより、電車の時間大丈夫? またギリギリなんじゃないの?」

ブルーのダウンからデジタルの腕時計を引っ張り出して、圭吾はしっかりとうなずいた。

「もう間に合わない」

「次の電車は?」

今度はリュックのポケットからメモを取り出す。

「えーっと、四十八分あと」

一段と強くなった吹雪を見てから、美澄は圭吾に視線を戻す。

「ココア飲む?」

「コーラがいい」

「了解」