どこだっけ? 保存しておいたんだけど、と馨はスマートフォンをスクロールし続ける。
美澄は里芋の半分を沸騰した湯に入れ、残りはフリーザーバッグに入れて冷凍庫にしまう。

「あ、あった」

はい、と手渡されたスマートフォンの画面には、久賀から馨へのメールが表示されていた。

「読んでもいいんですか?」

「いいんじゃない? 『読ませるな』って言われてないから。でも内緒ね」

里芋の茹で具合を確認する馨の隣で、美澄はその文面を追う。

『From: 久賀夏紀
To: 日藤馨
件名 (なし)

先日お話した弟子入りを希望されている生徒さんです。
名前は古関美澄(こせき・みすみ)さん。
年齢は二十一歳か二十二歳だと思います。すみません。正確に聞いたことがありません。
古関さんは本格的に将棋を始めたのが二年前で、圧倒的に経験が不足しています。ネット将棋がほとんどだったので、特に対面で指すと思考にブレが生じ易いという欠点があります。できれば研究会など紹介していただき、直接人間と指す機会を多く取らせてあげてください。
棋風に関しては添付した棋譜を見ていただければわかると思いますが、振り飛車党です。
好きな戦型ばかり勉強するので、居飛車に関する理解が足りません。
中飛車を好んで指されてきましたが、この一年半、三間飛車と四間飛車も勉強してきました。
やや攻め将棋ですが、とにかく切り替えが下手で、バランスを取ることが苦手です。一度攻めたら引くべきタイミングでも無理に攻め、守りに転じたら攻めのチャンスが来ても思い切れなくなります。
形勢がいい時はあまり変わりませんが、悪くなるとわかりやすく暗い顔をします。
感情がとにかく顔に出ます。
注意するとむくれ、褒めると浮かれます。
難しい局面で考えがまとまらないと、「わからない」と暴れます。
本人は気づいていませんが、対局中に思考を口に出す時があるので、見つけたら注意してください。
対局中は一人言が多いです。
普段もたくさんしゃべります。
内容はどうでもいいことがほとんどです。
他人の話をすぐ鵜呑みにして流されます。
自分が他人とずれていることに気づいていません。
ものすごくおかしな格好をしているので、あなたとは気が合うかもしれません。
存外真面目で、言われたことはすべてこなそうとするので、時々パンクします。
その時は力づくでも休ませてください。
棋歴は浅いけれど、将棋に対する熱意は確かなようです。
いつも楽しそうに将棋の話をします。
芯の強いひとです。
彼女が女流棋士になれるよう、お力を貸してください。
よろしくお願いします。

久賀夏紀』