ヴェルト・マギーア 星の涙FinalAct

「くっ……!」
 
あいつ……こんな景色を俺に見せてどういうつもりなんだ! そう思った俺は拳に力を込めた。

「っ! そうだ、レーツェルは!」
 
近くにレーツェルの姿がない事に気がついた。ブラッドやサファイアの姿も見当たらない。まさか引き離れたのか?

「くそっ!」
 
俺は力を込めた拳を、近くにあった大木に打ち付けた。

「レーツェル……!」
 
おそらくレーツェルも俺同様に、クリエイトに幻を見せられているのかもしれない。見せられている幻がレーツェルを傷つけようとする物ならば――
 
そのとき脳裏に人形だった頃のレーツェルの姿が浮かんだ。もしまた、レーツェルがあの時の彼女に戻ってしまったら……今度こそ。
 
俺は頭を左右に大きく振って嫌な考えを取り払った。今のレーツェルはあの時の自分とちゃんと向き合えているように見えるが、本当はそんなことないんだ。

彼女は今でも、自分の体の傷を見て悲しい表情を浮かべる時がある。眠っている時だって、あの嫌な記憶でうなされているのか、たまに酷く汗をかいている時がある。
 
その姿を見る度に不安になるんだ。彼女があの時と同じ痛みを体に受けて、暗闇に飲まれてしまったら、もう二度と笑顔を向けてくれないんじゃないかって。

「……そんなこと!」
 
軽く目を細めて、聖国がある方角へと体を向ける。
 
俺が目覚めた場所は、よくヘレナと一緒に遊んだ思い入れのある場所だった。だとするなら、レーツェルも聖国で目を覚ましている可能性が高い。

しかし同じ時間軸に飛ばされた保証はない。しかしそれでもここで立ち止まっているわけにはいかないんだ。

「待ってろ、レーツェル」
 
小さく彼女の名前を呟き、一歩前進した時だった。

「アル?」

「――っ!」

『アル』と呼ばれた俺は思わず足を止めた。