「だって、だってあなたはトトなのです! 私が望んだ……! 彼が本当になりたかった姿こそ、あなたなのですから!」
 
その言葉を不意に思い出した俺は、両拳に力を込めた。
 
トトが本当になりたかった姿が俺だって? 本当にそうかよ? こんな大切な人たちを誰も守れない俺が、本当にトトがなりたかった姿だって言うのかよ?
 
もし本気でエアがそう思ったんだったら――

「ふざけんな……!」
 
エア、お前は知らないだろうな。どうしてあの時、トトがお前に【愛している】って告げたのかを。
 
だから俺はお前が嫌いだ、大嫌いだ! 自分勝手に己の理想を押し付ける奴なんて、クソくらえだ!

「はぁ……」
 
俺は深呼吸して、自分の中で暴れている感情を抑え込む。

「今はエアの事なんてどうでもいい。今はこの世界から出る手段を探す事が先決だ」
 
俺は部屋にあるクローゼットの扉に手をかけ、左から横に開けてから中に入っている服を選び始める。

「……もう一度エアに会ったら、今度は真正面から拒絶してやる」 
 
俺はお前が大嫌いだ! 俺が愛しているのはオフィーリアだけだ! って、大声で言ってやるつもりだ。

「よしっ!」
 
いつも通りの服に着替えを終えた俺は、今度は机の引き出しから眼帯を取り出そうとした。そしていつも眼帯が入っている引き出しを手前に引く。

「あれ、眼帯がない?」
 
しかし引き出しの中に眼帯の姿はなく、空っぽだった。

「まさかミリィのやつ、ここに入れておいた眼帯全部洗いやがったな!」
 
ほんとにあいつは……! 自分の物は自分で洗濯するって言っておいたはずなのに……。

「これじゃあ外なんて出歩けねぇよ」
 
最近はずっと包帯を巻いていたから、眼帯をつける機会はなかった。
 
あの包帯にはレーツェルの魔力が込められていて、右目に掛かる負担を軽くするものなんだ。
 
でも今はその包帯すらないし、服装だってずっとアルの魔力を身にまとっていたせいで、少し違和感を感じる。