ヴェルト・マギーア 星の涙FinalAct

「いただきます」
 
先にセシルが手を合わせてから言うと、朝食を食べ始める。

隣に居る妹の姿を横目で見ながら、俺も恐る恐るポタージュが入ったカップの取っ手を掴んだ。

「……っ」
 
カップの取っ手からは、確かにポタージュの温かさを感じた。

そして匂いも。ポタージュを一口飲んでから、ちゃんと味もある事を確かめる。

「……美味しい」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「え?」
 
エプロンを丁寧に畳んでいた母さんが、俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑していた。

俺はただ思った事を口にしただけだった。それなのに、どうして母さんはそんなに嬉しそうにしているんだ?

「いつものお前なら、絶対にそんなこと言わないからな。いつも無口で、自分から話すことなんてないからな」

「お、俺ってそんなやつなのか?」

「なんだ、自分で気づいていなかったのか?」

「…………いや――」
 
きっとそうなのだろうと思ってしまった。

クリエイトが作ったこの世界は、もしかしたら俺が本当に辿るべき未来だったのかもしれない。

俺が小さい頃に夢見ていた、望んでいた日常が、今目の前に広がっている。

でも何故かこの世界の俺は、妹に対して口煩く、両親に対しても素っ気ない態度を取っている。

理由は分からないが、俺はそんな自分が理解出来なかった。

もう一度出会えた両親に、助ける事が出来なかった大切な妹。

俺の家族はちゃんとここに居てくれる。

いつも一人だったこの部屋には、ずっと居て欲しいと思っていた人達がいるんだ。

「な、なんか……悪かったよ。今度からは気をつけるから」
 
この世界はクリエイトが作り出した幻だ。

だからこの幸せは永遠には続かない。

でも少しだけでいい。この世界から抜け出す方法が見つかるまで、どうかこの幸せを感じさせて欲しいと思った。

「そうか? 俺達は別に気にしてないけどな。まぁ、確かに今のままだと、許嫁の彼女に呆れられてしまうかもな」
 
と言って、父さんは母さんに淹れてもらったコーヒーを飲みながら、新聞に目を通していく。

「あぁ、そうだな。父さんの言う通り………………ん?」

今なんて言った? 俺の『許嫁』って言わなかったか? 許嫁……う〜ん許嫁か。

「はぁ!? 俺の許嫁!?」
 
びっくりした俺は思わず机を叩いて立ち上がった。

両親と妹はそんな俺を見上げながら、驚いて体を後ろに引いていた。