「……」

「……」
 
互いにじっと見つめ合い、しばし沈黙の時が流れた時、男は立ち上がると私との距離を縮めてくる。

そして――

「これが……一目惚れってやつっすか!!」
 
そう言って男――コスモス・ベラドンナは、瞳の中にハートマークを浮かべながら、キラッキラとした表情で私を見つめてくる。

まったく……相変わらずだなこいつは。と思ったが少し嬉しかった。

駄目もとでこいつの事を探していたが、無事に見つけ出す事が出来て良かった。
 
こいつに守護者としての記憶がないのは、おそらくあの世界で目が覚めていない事が原因だろう。

だとしたら、アルとレーツェルなら。

「コスモ。お前に頼みたい事がある」

「えっ……何で俺の名前知ってるんすか?」

「知っているさ、嫌ってほどな」
 
そう言いながら私は、彼が左耳につけていたイヤリングを奪い取った。

「あ! ちょ! それは!!」
 
するとイヤリングを奪い取った事により、コスモ本来の姿が目の前に現れた。

光国の出身だと現す金髪に、氷国出身だと分かる左目が青紫色、右目が金色のオッドアイ。

彼の両親は父親が氷国出身、母親は光国出身で、コスモはそんな二人の間に生まれた子供だ。

だから幼い頃のコスモは、普通に生活を送る事に苦労したらしい。

一見彼は光国の出身に見えるが、左目が青紫色のため、外を出歩く事は許されなかった。

しかしコスモ本人はそれでも良かったんだ。それは彼の望みが『星を見ること』だけだったからだ。

母親が亡くなったコスモは、光国で暮らす事が難しくなり、父方の家へと引き取られた。しかし見た目が他の人達と違うため、光国に居た頃よりも氷国での生活はもっと苦労したそうだ。

それから大きくなったコスモは、自分が作った『見た目チェンジイヤリング』を使って、光国と氷国を行ったり来たりしていた。

理由はもちろん、星を見るためにな。

「コスモ。確かこれもう一つあったよな?」

「えっ? あ、あるにはあるっすけど、き、君はいったい……?」

「私か? 私はサファイア・スカビオサ。この名前に聞き覚えはあるだろ?」

「サファイア……スカビオサ……! さ、サファイアって確か!」
 
私の正体に気がついた彼は慌てると少し距離を取った。

「お、王女様がいったい……俺に何の用っすか?」
 
コスモは私を氷国の王女だと知っても、ビビったり声をあげて逃げる事はなかった。

普通だったら逃げるところだろなんて思ってしまうが、コスモの姿に私は嬉しかった。

「な〜に、簡単なことさ」
 
ニヤリを笑みを浮かべて、彼の胸倉を掴んでぐっと自分の顔を近づけた。

「私を炎国まで運べ。ただそれだけだ」

「え、えええ!?」
 
これはコスモにしか頼めない事だ。

このままの姿で氷国を出ようとしたら、私は必ず捕まる。

そして叛逆者として処刑される事になるだろう。

まぁ、私がその気になれば処刑される事なんて絶対にないのだが、余計な事に力を使いたくない。

だから安全な道を行くのが最善の選択だ。

「いいか、コスモ。これは命令だ」

「め、命令……っすか?」

コスモは私の顔を見てゴクリと息を飲み込んだ。しかし直ぐに頬を紅潮させると、今度は私の手を掴んできた。

「間近で見ても、やっぱり綺麗っす……」

「……っ」
 
まったく……こいつは。どんな世界に居ても、やっぱりお前はお前なんだな。