氷国王都――ラピスラズリでは、相変わらず多くの人々が死人のような表情を浮かべながら生活を送っていた。

活気はない。

笑顔もない。

賑やかでも華やかでもない。

本当に何もかもが冷めきったところだ。
 
その原因は全て、現国王である私の兄上――フリージア・スカビオサが発令した、『氷国独立宣言』が最もな理由だ。
 
先代国王であった私の父上が治めていた頃は、この国はもう少し活気があり笑顔が溢れていたと思う。

王都にはたくさんの民たちが行き交い、他国との交流も積極的にしていた。

しかし先代国王が不治の病で亡くなると、王位継承権第一位だった兄上は、即位直後に氷国の独立を宣言した。

王が決めた国以外との交流をやめ、そのせいでこの国はほぼ鎖国状態となってしまった。
 
寒かったこの国には更に冷たい冷気が入り込み、暗い影が目立つようになった。誰もが現国王のやり方に不満を抱きながらも、それを口にする事は許されなかった。
 
街の中は国王直属の近衛兵が常に、王都の中を見回っている。

王に対する侮辱発言と行為、または反乱を企てようとしてる者達を容赦なく捉え、その者たちは公衆の面前で一斉に死刑が執行される。

そのせいで民たちは兄上を怖がり、誰もが逆らおうとしなかった。

ある日、この国に初めてやって来たあいつらを除いては――

「……」
 
だから私はやらなければならないんだ。この国のため、そして自分自身のためにも。
 
私は立っていた屋根の上から飛び下り、そのまま王城へと続く道の真ん中に仁王立ちした。近くを巡回していた近衛騎士が私に気がつくと、腰にある剣を抜いてから、大股でこちらへと歩み寄って来る。

「貴様、こんなところで何をしている!」
 
近衛騎士は私の事を知らないのか? 何て疑問に思いながら、私は側に来た近衛騎士の顔をギロリと睨みつけた。

「ひっ!」
 
私の威圧にビビったのか、それとも単に怖いと思ったのか、男は女みたいに可愛く悲鳴をあげると後退する。

「すまないが、お前の相手をしている時間はないんだ」
 
男にそう言い放ち、王城に向かって前へと進み始める。

無用な殺戮はしたくない。

だから早めにケリをつける必要があるんだ。この氷結の力がコントロール出来るうちに。