ヴェルト・マギーア 星の涙FinalAct

「……っ」
 
まくっていた袖を下ろして、目の前にある書類へと目を落とす。すると紅茶の準備をしていたプラチナが側に来ると、書類の隣に紅茶の入ったカップをそっと置いてくれました。

「レーツェル様。そろそろ休憩なさってはどうでしょうか? もう何時間もずっと休まず、書類にサインをしているのですから」
 
プラチナは心配した表情で見下ろしてくる。そんな彼女に軽く微笑して見せ、淹れてくれた紅茶のカップを持って一口飲む。
 
そんな私を見てプラチナは優しい表情を浮かべました。唯一、この世界で安らげる時があるとすれば、それは彼女が淹れてくれた紅茶を飲むことだけでした。
 
あの世界に居た時も、彼女はよくこうして紅茶を淹れてくれました。人形だった頃の私も、この時間だけは楽しみだったと思います。彼女だけが、プラチナだけがずっと私の側に居てくれた人だったから。
 
だから……後悔しています。クリエイトの目的を知らなかったとはいえ、私は彼女に星の涙を託してしまった。エアの願いを叶えるために、一番信頼していたのが彼女だから。
 
でもそんな私のせいで、プラチナを不幸にしてしまいました。そしてオフィーリアまでも……私のせいで!

「レーツェル様? どうかされましたか?」

「っ!」
 
私は紅茶の入ったカップを睨みつけながら、拳に力を入れていました。その事に気がついて、拳を解いて直ぐに彼女に笑って返す。

「レーツェル様……。お声はまだ……」

「……」
 
彼女の言葉に私は顔を伏せる。私の声はまだ出ない。しかし出せない原因は既に分かっています。

それは私の声を、聖教会最高司祭であるレオナルド・パストゥールが管理しているからです。

その事をこの時のプラチナはまだ知りません。

彼女や他の方々は病が原因で声を出そうとしないのだと、レオナルドにそう吹き込まれているのです。
 
しかし神のお告げがあった時だけ、私はみんなの前で話す事を許されました。

神の子、神の使いとして、神のお告げを聖国の民たちに伝えなければいけなかったからです。

そしてレオナルドは影でそれを上手く利用し、『神のお告げ』と称して自分にとって利益がある事を、私に言うように差し向けていました。
 
私の首には特殊なチョーカーが付けられています。レオナルドはそれを使って自由に操っている。

これを外す事が出来るのは、鍵を持っているレオナルドだけです。 

だから自由に声を出す事が出来ず、彼女の言葉に対しての返答は表情で返したり、紙に字を綴って返しています。