「兄上……これは!」

「……っ」
 
クリエイトが発動した【楽園の世界(エリュシオンヴェルト)】によって、ブラッド君達を含める、この世界に生きとし生けるもの全てが、彼が望んだ世界へとのまれていった。
 
空いっぱいには複雑な呪文が書かれた魔法陣が広がり、新たに世界を構築し直すために、時計の羅針盤が悠々と浮かび、大きな時計の針を動かしている。

「なるほど、彼は最初からこれを狙っていたんですか」

「兄上?」
 
私は閉じていた目を薄っすらと開けて魔法陣を睨みあげる。
 
楽園の世界――エアの世界ですか。
 
なるほど、なかなか面白い事を彼は考えた物ですね。
 
クリエイトはブラッド君の右目に宿っていたトトの魔力、黒焔の太陽の目が吸収して溜め込んでいた魔力、そして星の涙がこれまでに主から奪ってきた魔力を使って、エアだけが幸せになれる世界を構築した。
 
しかし彼の力である【創造】を使ったとしても、完全に一つの世界を構築仕上げるには、それなりに時間が掛かってしまう。
 
エア様とトト様方がこの世界を創造した時は、星の涙の魔力だけでこと足りた。
 
あの時の星の涙には本来の魔力が宿っていたし、他の魔力など一切混じらず、純粋な星の力として世界の魔法(ヴェルト・マギーア)を発動させたから、一瞬にしてこの世界が出来上がりました。
 
でも今回はあの時とは違い、星の涙には元の魔力が戻っておらず、トトの魔力と黒焔の太陽の魔力も混じってしまっている。
 
そのため本当にエアが望んだ世界を作り上げるためには、どうしたって二つの魔力は邪魔になる。
 
だから浄化を施し、元の純粋な魔力に戻す必要がある。
 
その作業を行うために、クリエイトはまずこの世界に生きる人々全員を、楽園の世界を発動した事によって、魂だけを世界の中に閉じ込めた。
 
そして後は時計の針が一周して十二時を指した時、クリエイトの望む【エアだけが幸せになれる世界】――楽園の世界が始まり、一生外に出る事は叶わなくなる。

「兄上……僕たちは」

「う〜ん、そうですねぇ。本当だったらこのまま見物して終える予定だったんですけど」
 
そう言うわけにも行かなくなってしまったみたいだ。
 
ブラッド君には、彼が魔法を発動させる前にクラウンと決着をつけてほしかったところですね。
 
まあでも、これも想定内のことだ。
 
あとは彼が先に目覚め、クリエイトの行いを止めるのが先か、それともこのまま目覚める事はなく、クリエイトが望んだ世界に囚われてしまうのか。

「しかしそれでは、こちらとしては困るのだよ」

あとに控えている【大事なこと】のためにも、君には生きて目的を果たしてもらわないといけない。