森川彩香と私を乗せた黒のクラウンはホテルの車寄せに停車すると流れる動きでドアマンが後部座席のドアを開けた。

先に降りて彩香が降りるのを待つ。
何となく、この動きが彩香より私が“下”であると言われているようで気分はよくない。
考えすぎかもしれないけど、自分が待ち伏せして私を車に乗せたのに上座でいるとか何と無く嫌な予感がした。



車に乗り込む前のこと

「豊田雪さんですよね?」

確信を持って声をかけてくる彼女に警戒心が湧いた。先日の絢事件がすっかりトラウマになりつつあるからだ。

「そうですが、失礼ですが?」

「ごめんなさい、わたしは森川彩香です」

「初めてお目にかかります、森川様はどうして私を?」

ニッコリと笑う笑顔が胡散臭い。

「新二くんから写真を見せてもらったから、豊田さんだと分かりました」

新二さんが見せた写真ってアレのことだよね・・・

「私に何か?」

「少しお話がしたくて、でもここではちょっと、ゆっくりとお話ができるところに移動しましょう」

確かに会社の前だと、また要らぬ噂を流されるのもいやだったのと、どう見てもどこかの会社のハイヤーであることがわかり危険性もないと思い車に乗ることにした。