要らぬ心配だったというように、車は時間通りに用意されていた。
同行は不要とのことで常務を見送ったあとエレベーターに向かう。

基本的には乗車はセキュリティセンターのある地下駐車場で行われる。

エレベーターが来るのを待っていると誰かが早足で近づいてくる足音が聞こえる。
エレベーターに乗りたいのかしら?と、足音のする方向を見るといきなり頬に衝撃があった。
星が出るという表現はあながち嘘では無いんだとヒリヒリと痛みが広がる頬を抑える。

「男に媚びるばかりじゃなく、告げ口で人を落とすなんて!わたしが地下に落とされて落ちぶれているのを見に来たワケ?性悪女」

何を言われているのかサッパリ分からない。
男に媚びてないし、告げ口?
信用が出来ない人の為にわざわざ保険を取らざる得ないのは社会人として当たり前。

今までは敢えて関わらないようにしていた。
自分が我慢すればそれでいいと思っていた、でもそれでは私はずっとこんなふうに濁流に流されあっちこっち傷がついて痛いのに、その傷が治るのをじっと我慢していかなくてはいけない。

私は佐藤さんの正面に立ち、しっかりと彼女の目を捉えると一歩踏み出した。