「泥棒!ひとの彼氏を取らないでよ!あれだけ警告したのに」

「やめろ!雪は関係無い。不満があるならオレに言え」

茂は素早く立ち上がりAyaの手を掴むと持っていた空のグラスを取り上げテーブルに置いた。
そこで初めてこのグラスに入っていた水をかけられたことに気がつく、ゆっくりと顔を上げると歪む表情の彼女が見下ろしていた。
般若が具体化すればこんな感じだろうか、嫉妬という黒い感情に飲まれた女の姿は鬼そのものだった。

「許さないから!このクソ女」

「やめないか、ちゃんとオレと話をしよう」

「しげるさぁぁぁぁん」
「うわーん」

茂がAyaを抱きしめると感情が溢れ出るように泣き出した。

「雪、大島に電話してくれ」

「え?」

「早く」

何故いきなり賢一に電話をする様に言い出したのかわからないが、今は言われた通りにした方がいいのかもしれないとスマホを操作しようとするが手が震えて上手くいかない。

自分が感じてる以上にこの状況に恐怖を感じているようだ。
なんとか通話ボタンを押すとすぐに繋がった。

Ayaが激しく泣き声を上げ、店内にいる客がチラチラとこちらを伺っている。

「あの、け」
上手く話せないでいると茂がスマホを手に取ると話し出した。
「悪い、大島、今から○○のファミレスに雪を迎えに来てくれ」

「すまない、オレのせいで」

「後で説明する」

茂はそう言った後スマホを返してきたがすでに通話は切れていた。

「今、大島が迎えにくるからここで待っていてくれ。オレは関谷さんを送っていくから」

泣きじゃくるAyaの肩を抱いて出ていく茂の後ろ姿をぼんやりと見ていると店員がおしぼりを数枚持って来た。