「…………………」





何かを考えているような、そんな顔をする彼は
私が作ってきたチーズケーキを食べる手が止まってる。




その反応……





「……まあ、隠すようなことでもないから言うけど」



「う、うん…」





「抱きしめたことはあるよ。1回だけな」





「……いつ?」


「そんなの聞きたいか?」


「分かってるけど…気になるから。」







嫌な気持ちになるのは分かってる。





分かってるけど、聞きたい。


そこまで知ったなら、全部聞いてたい。






「…………吹雪いてた日、華が道端で身体を震わせて怯えていたから。恐怖でいっぱいのそんな顔。だから咄嗟に抱きしめた」






淡々と話す彼の顔に嘘はない。






「あの日…」






蒼空さんが、事務所に帰ってこなかった日だ。



帰ってこないから何かあったんじゃないかって、不安でいっぱいになった日。






「あの日、何があったの?」






「つけられていたらしい。まあ…痴漢ってやつ。アイツとは別のストーカーらしいけど、襲われそうになったって。……で、逃げてすぐに俺に連絡をくれたわけ。」







華さんのあの怯えたような声。



その事実を今知った。







「そうだったんだ─…」



「だからその時の1回だけ。それ以外は何もない」







そう言って、彼は再びチーズケーキを食べ始めた。



華さんを襲ったその人に対しての苛立ち。

「それ以外は何もない」という言葉の安心感。





どんな表情をすればいいのか分からなくて、見られないように顔を俯かせた。






「ねえ蒼空さん……」


「ん?」





「………他の人とは?」







バカ私。


なんでまたそんな事聞こうとしてんの。



せっかくのデートだというのに、
聞いてどうしたいんだ。






「まだ知りたいのかよ……」






ほら、呆れてる、蒼空さんも。







「だ、だって気になっ……んむ」






パッと顔を上げれば


口にチーズケーキを入れられてしまい、喋りずらくなってしまった。






「俺は、過去の話よりも未来の話がしたい」


「っ、」


「その方が、この先楽しみだろ?」






ふっと鼻で笑った蒼空さんは、優しい目をして私の唇を指で愛撫する。






「これからお前との未来しかないんだから。」






「これ美味いな。」そういう蒼空さんに、私は何度も頷いた。



美味しいよ。とても。
すごく上手に出来てると思う。





その頷きはこのチーズケーキが美味しいという頷きでもあるし、


未来のことについて話したい


その事に対しても。







「……私犬飼いたい!!」


「あー、分かる」


「でしょっ!ダルメシアンがいいな~
ソラみたいに小柄で活発な子がいい!」


「じゃあもう晶さんに譲ってもらうか」


「譲ってくれるなら譲ってほしいけど!」






2人で仲良くチーズケーキを食べながら、この先のことを話し合う。





蒼空さんの言ってた通りだね。


この先のことがどんどん楽しみになってくよ。