request16
一難去ってまた一難












その日の帰り道。





蒼空さんが退職するということもあってか、


蒼空さんと心音さんは昔の依頼の話に花が咲いていて


「ああ、そんな事もあったな」と、蒼空さんもなんだか楽しそうだった。





私もその話に参加していたものの

どこか浮かない気持ち。




寂しい…という気持ちの方が大きいと思う。




今月末だと言っていたから、まだ一緒に働ける時間はたくさんある。


だけど、それは、カウントダウン付きで。





(なんでもっと早く教えてくれなかったんだろう…)




私にだけでも、教えて欲しかった。



蒼空さんと一緒に働く日を1日1日大切に過ごせたのに……





「…………………」





そんな私に感づいていたのか


突如、腕をグッと強い力で引かれると





「コイツ送って帰るわ」




心音さんにそう告げていた。



気づけば、いつも私と蒼空さん達が別れる場所まで来ていたらしい。




「了解っ じゃあね月姫ちゃん♪」


「あっ、はい、また……」





ヒラリと手を振る心音さんに、慌てながらも手を振った。



腕を掴む手が緩りと離されると




「…………悪い。」




2人っきりになって


はじめの会話は謝罪の言葉だった。




「……何が?」




何のことで謝ってきているのか、


気づいているけれど


気づいてないフリをする。




「辞めること、黙ってて」


「いいよ別に。気にしてないし」




ああ…なんでこうも、思ってないことを言ってしまうんだろう。




蒼空さんと同じ。私も強がりだ。





「そんなことよりもさ~」




分かりやすく、話を変えようとした。



これ以上この話をすると、もっと寂しさが増す気がして。





「………月姫。」




だけど



名前を呼ばれて驚きつつも、

逸らした目線を再び蒼空さんへと移せば




「っ………」




真剣なその表情は、きっとその話がしたいんだという事に気付かされる。





きっと

私に伝えることが他にあるから。