消えた未来

 士君は少し照れているように見える。自覚があるのか、私に顔を見せないようにしながら、ボールを拾い上げる。

「お姉さんも、距離感がバカなの?」

 辛辣すぎるし、心外だ。これは不可抗力でしかないのだから。

 そう反論しようとしたら、士君はなにかに気付いたみたいで、先に言われた。

「初対面の人に、素直に名前を教えた俺もバカだ」

 士君は自嘲しているけど、私は苦笑するしかできなかった。

 せっかくだから、どうやって久我君と知り合ったのかとか、久我君がどんな人なのかとか聞こうとしたけど、タイミング悪く、スマホにメッセージが届いた。

 嫌な予感というものは、大抵当たるものだ。

 送り主は、お母さんだった。

『まだ帰らないの?』

 そんなに長い時間話していた感覚はないけど、お母さんからしてみれば、もう遅いらしい。

 そのメッセージを見て、私は大きくため息をついた。

「どうしたの?」

 目の前でため息をつく人がいれば、誰だってそう問いかけるだろう。

「ううん、なんでもない」

 そして、こう答えるのがテンプレートだ。ついでに言えば、作り笑いまでがセット。

「私、もう帰るね。久我君のこと、教えてくれてありがとう」

 私は士君の疑いの目から逃げるように、帰路についた。