消えた未来

「はじめまして。侑生の叔父であり、ここのオーナーをしてます、高瀬宏隆といいます」

 その名前を聞いて、納得した。

 高瀬先生に似ているのだ。

「織部真央です」
「織部さん。さっそくだけど、明日から働ける?」

 改めてお願いをしようとしたら、先に言われた。

「はい。でも、いいんですか? 私、履歴書とか……」

 今、やっと冷静になった。

 無気力な状態ででてきたから、なんの準備もしていない。

「それはまた後日でいい。素敵な志望動機だったからね」
「ありがとうございます。お願いします」

 私はこれでもかというくらい、頭を下げた。

  ◆

 喫茶店で働くようになってから、徐々に笑うことが増えてきた。

 大学に行く余裕もできて、今日は久々に学内を歩いていた。

 すると、誰かに背後から抱きつかれた。

 月渚ちゃんだ。

「真央ちゃん、すごく心配してたんだからね」
「ごめん、ちょっと大学に来れる精神状態じゃなくて」

 笑って言っても、月渚ちゃんは心配そうに私を見上げた。

「大丈夫なの?」
「うん。あのね、月渚ちゃん。聞いてほしい話があるんだ。聞いてくれる?」
「もちろん」

 月渚ちゃんは満面の笑みで、即答してくれた。

 そんな彼女だからこそ、私は話したいと思った。

「私の、一生大切な恋の話なんだけど……私ね、 私の心は全部、一人にあげたんだ」

 そして私は、大切な思い出と、消えてしまった未来の話をした。



   了