消えた未来

〈まあ、今はね。というか、苗字呼びに戻った?〉
〈それは……〉

 久我君は綺麗に視線を逸らした。

〈なるほど。真央以外の女の人の名前を呼ぶのは辞めたわけだ。でも、真央の名前は呼べない。ピュアだね〉

 お姉ちゃんの声が、完全にからかうモードだ。

 久我君はまだ顔を見せてくれないけど、耳が赤くなっている。

〈そんなことより、織部さんはいいのかよ。妹の好きな人が、死にかけの人間で〉
〈私は……真央が幸せなら、それでいい〉
〈……未来がなくても?〉

 お姉ちゃんの声がしない。

 久我君も、ようやく顔を見せてくれたと思えば、申しわけなさそうな表情をしている。

 すると、久我君は咳き込み始めた。

 同時に、画面が安定しなくなった。

 それどころか、耳を塞ぎたくなるほどの物音がして、真っ暗になった。

「このとき、カメラを下向きにしてカルテの上に置いたの」

 横から、お姉ちゃんが説明してくれる。

 その間に、お姉ちゃんの慌てた声が聞こえていた。

〈……死にたく、ないなあ〉

 暗闇の中で、消えてしまうような声が聞こえる。

〈やっと、あの笑顔に再会できたのに……また俺のせいで、あの笑顔奪ってしまうのは……嫌だ……〉

 久我君の苦しそうな声に、自然と涙が落ちた。