消えた未来

 耳を澄ませば、深呼吸をしているのが聞こえる。

 泣くのを堪えているのだろうか。

「織部さん、迷惑かけたみたいで、ごめんなさい。侑生を連れて戻ってくれてありがとう」

 どうすることもできずに立ち尽くしていたら、高瀬先生に言われた。

「いえ……」

 もっといい言葉はなかったのかと自分でも思う。

「侑生、ちゃんと話せた?」
「ああ。やり方は気に入らないけど、ありがとな」

 高瀬先生は片側の口角を上げて応えた。

 久我君のお母さんは、今の久我君の言葉と、表情を見て目を丸めている。

「侑生、いいことあったの?」

 この鋭さは、さすが母親とでも言うべきだろうか。

 そんなことを思っていると、久我君が振り向いて、私の腕を掴んだ。

 そのまま、久我君の隣に移動させられる。

 久我君のお母さんは不思議そうに私を見上げている。

「織部真央さん。俺の好きな人」

 どうしてこうも、はっきりと言えるのか。

 聞いているこっちが恥ずかしくなる。

「侑生、そんなこと言う奴だった?」

 高瀬先生も少し恥ずかしそうにしている。

「もう自分の心に嘘をついて、後悔したくないから」

 それはそうかもしれない。

 二年前のように、言いたいこと言えなくなることもあるのだから、今、伝えるべきことは伝えたほうがいい。