しかし、突然春香は僕の胸を掴んでいた手を離し、目の前に膝立ちになった。
「はる、」
突然頭の後ろを掴まれ、春香の胸にギュッと抱き込まれて言葉を失う。
こうやって春香が僕のことを抱きしめることなんて、今までなかったから。
「ねぇ、ユキ」
「……な、に」
「もっとさ、理不尽なことに怒ってもいいし、苦しかったら泣いてもいいんだよ」
「えっ?」
「辛かった過去を全部受け入れようとしなくていいの、もっとワガママでもいいの」
「…………」
「ユキの人生は、ユキのものなんだよ? 自分が幸せになる為に生きていいんだよ」
春香の声が部屋に響いた瞬間、どくんと心臓がとても大きく脈打つ。
ずっと狭かった視界が一気に開けて、ずっとのし掛かっていた重りがなくなったように心が軽くなる。



