ヴィンセントは弓を構えて矢を放ち、黒い手に矢を命中させる。矢が当たった黒い手はドロドロに溶けて消えていくのだが、次から次に新しい腕が現れるため、キリがない。

「助けてくれ!」

ヴィンセントは自身の式神である雄鹿を召喚し、雄鹿は主人の危機を察して目に怒りを宿しながら長く立派なツノで黒い手に攻撃をしていく。その様子を見て、ヴィンセントは叫んだ。

「僕のことはいい。アリスさんを守ってくれ!」

ヴィンセントがそう命じると、雄鹿は少し迷いつつもアリスを掴もうとする手を追い払っていく。

「ヴィンセントさん!」

馬が来た道を引き返そうとし、アリスは必死に止めながらヴィンセントを見る。一緒に戦うつもりなのだろう。手には扇形の武器が握られている。それを見てヴィンセントは口を開いた。

「僕は大丈夫です。アリスさんは逃げてください!」

「でもッ……」

アリスが言う前に、馬が走り出していた。スピードをかなり出しているため、すぐにギルベルトの元に帰れるだろう。ヴィンセントがホッとした刹那、自身の体に黒い手が巻き付き、地面に叩き付けられる。