遠くで雨音が聞こえてくる。ボサボサの白髪混じりの黒髪の男性は作業の手を止め、ボウッと目の前にある白い壁を見つめた。

男性は紺色の着物の上から白衣を羽織り、背もたれのついた椅子に腰掛け、ずっと作業をしている。テーブルの上には何かの薬品が入ったビーカーやフラスコが置かれ、床には民俗学や科学の本が散乱していた。

男性は一日中、建物の地下室にあるこの部屋に籠り、外に出ることは滅多にない。そのため、男性と話したいのなら地下室まで足を運ばなくてはならないのだ。

変わらずボウッとしている男性の耳に、コンコンコンと軽やかなノックの音が聞こえてくる。それに男は返事をしないままだったが、「おっ邪魔しま〜す!」と明るい声が聞こえ、ドアが壊れるのではと言いたくなるような勢いで開く。

「報告があるから来ちゃった。相変わらず暗くてヤな感じの部屋だね〜」

そう言いながら入ってきたのは、ふわふわとした白髪に小さなシルクハットをかぶった青年だった。黒いマントのついたタキシードを着こなし、ニコニコと笑っている。