顔を上げると、余裕なさげな表情の日南先輩と目が合った。



「ぎゅってしていい?」



落ちてきた言葉。

優しく穏やかで……でもどこか焦りが含まれている。


「うん」と頷く前に、自分から日南先輩の胸に飛び込んだ。


「なにこの可愛い生き物……」

「……可愛くないです」

「めちゃくちゃ可愛い」


背中に両腕を回すと、日南先輩も同じように抱き締め返してくれた。


「一緒に修学旅行に行く?」

「無茶言わないでください」

「ははっ、だよなー」


日南先輩の声が近くで響く。


……本当だ。日南先輩の言った通り、触れると余計離れがたくなる。

ずっとこうして、いつでもぎゅってできる距離にいてくれたらいいのに……。