日南先輩がなんであんなことを言ったのかわからなくて。なんで突き放したのか、わからなくて……。

今こうして手を引かれているのは、もっとわからない。


どうして……?

考えちゃいけないんですよね……?


でも、わからないことだらけだけど……日南先輩が近くにいるのが嬉しい。

傍にいて触れられるだけで、どうでも良くなっちゃうくらい嬉しい──単純な生き物。



ドアを開けると、冷たい風が身体に触れる。

あれから季節が変わった。


日南先輩に連れて来られたのは、始まりの場所──非常階段。


しばらく足を踏み入れていなかったここは、変わらない。

4階から見渡す景色も。遠くの方から聞こえる生活音も。雨露に晒されて薄汚れた手すりも──あの頃のまま。


変わったのは身体を包む気温だけ。

でも、あの頃よりぐっと下がっているはずなのに、熱を持っているせいか寒さを感じない。


手を離した日南先輩は、振り返って私の方を向いた。


「サリーちゃん、ごめん」


それが日南先輩の最初の言葉。