「あたし、ちょっと抜けるね」と言って、花森先輩が席を立った。


どうやら近くのカフェに友達が集まっているそうで、顔を出しに行くらしい。


どうしましょ。花森先輩がいなくなって、いよいよ女子が私1人になってしまった。


鞄を置いて行ったから、戻る気はあるのだろうけど……。

普段は花森先輩がいなくても気にならないのに、周りの目があるだけで居た堪れない気持ちになる。



俯きがちになっていた視線。
ふと顔を上げた──瞬間。


「──っ!」


目に映ったのは、エナメルバッグを肩から下げる撫藤高校の野球部。


日南先輩たちをチラ見しながら通り過ぎていく中、うち1人が私に視線を移してきた。

────辻堂くん。


店を出て行こうとしている。

……今の今まで、店にいたことに気がつかなかった。