大きく深呼吸をした佐藤は、視線だけを私に向ける。
「……こおりって書いて、氷」
やっぱり、それはどうやら佐藤の本当の名前、だったらしい。
「なんで偽名なんて使ってたの」
「偽名っていうか……妹、の」
「は?」
まさか、蜜は妹の名前だとでも言うのか。
なんで佐藤が妹の名前を名乗ってるの?
女装、しているのも、妹になりきっている、から?
「名前で呼ばれたくなかったのは、名乗っているのが本名じゃなかったから?」
「……」
こくり、とひとつ頷かれると、私は驚きというよりは呆れた気持ちでいっぱいになる。
ポロポロと崩れていく佐藤の嘘は、真実がひとつわかるとまた謎にぶち当たる。
「なんで妹になりきって過ごしてたの?しかも理事長までそれを認めているようだし、そもそも──」
そもそも、その妹はどこに──そう聞こうとして、口を噤む。
妹が健在しているのにわざわざ、身内公認で妹の名前を名乗って女装までするなんて無意味なこと、この佐藤がするだろうか?
そこに思考が行き着いた時、それを私が聞いていい話なのかと、立ち止まる。
その妹は今、どうしているの……?



