「お前のことを少しでも話したんだろう?それは決意をしたからじゃあなかったのかい?なぜまだ隠す必要がある?」
柔らかな声色に、この場の雰囲気が全て呑み込まれるようで。
佐藤の嘘も、決して悪意のある嘘ではないんじゃないだろうかと、思わされる。
本当に佐藤のことを想ってくれているだろう、理事長の言う言葉だからだろうか。
「ひょう」
また、理事長がその言葉を呟……本当にそれは、単なる言葉なのだろうか?
「ひょう……?」
私も、理事長の言葉を反芻するように呟くと、また佐藤が大きくビクついて、一歩私から離れようとする。
「や、やめて」
心做しか、佐藤の頬が赤い……首まで赤いからチークではないだろう。
「ひょうってなに?」
また何か隠そうとしている佐藤のもう片方の腕を取ると、さらにその体が逃げようとする。
なんだ、なにかの暗号か?それとも……。
「まさか、本当の名前?」
佐藤蜜、という名前は、あまりにも男には付けにくい名前だろうとは思っていたから、そこが嘘だったとするならば納得できる。
いつもは余裕たっぷりの佐藤が、私から顔を背ける姿はなかなか見慣れない光景で。



