逃げてしまいたい自分の心を、強く食い止めて、それだけでも今日の私はよくやった、勤勉だった。

これ以上は未知の領域に足を踏み入れる前にキャパオーバーを起こす。



「のどか」



彼の手が、頬に当てられる。

くいっと上を向けられた私の顔は、隠しようがなくなってしまって、情けない顔が向けられていることだろう。



それでも、満足そうに、幸せそうな顔で私の顔を覗き込む彼は、酷く近い距離にいて。

そっと、唇が触れて、離れた。

深い想いを、その一瞬にぎゅっと込められたような、震えるようなキスだった。



「好き。どうしようもないくらい、和香のことばっかり考えてる」

「……う、ん。……私も」

「ん」



一呼吸置いて、振り絞る勇気。

今度はその微かな距離を埋めたのは、私の方から。

微かすぎてくすぐったいくらいのキスを、それでも精いっぱいの私の想いを詰め込んで。



「――――氷が、すき」



その後、黄昏時の薄闇の中。

私たちはもうしばらく、想いを重ね合わせていた。